1417年、その一冊がすべてを変えた。
哲学者、エピクロスについて知りたかった。が、分かりやすそうな本がない。
さがしていると、この本に当たった。この本は、古代ギリシャの哲学者エピクロスの考えを、ローマ人ルクレティウスが解説した書「物の本質について」を、それの写本を、ルネサンス期の前にローマ教皇庁を追い出されてブックハンターに身を落とした男が、とある修道院の書庫の奥底から発見した、その記録だ。
「死んだらそれで終わりだ。天国なんてない」自分の理解だと、どうもそのようなことを、エピクロスという人は言っていたらしい。そんなようなことが、ブックハンターが見つけた写本には書いてあったらしい。そして、回りまわって、その思想が、ルネサンスという時代を引き起こしたのだと、多分そんなことをこの本は言ってるんじゃないかと。そう思う。
中世の世界で、修道院で、本がどれだけ大切なものであったか。印刷機がない世界で本を写し取るのがどれくらい大変な作業か。それでも本が好きな人間がいたと、その描写が面白かった。また、本が、その質が、物量が、修道院の権威付けに大事な存在だったと。はったりのために重要な存在で、だから逆に、各地の修道院などを渡り歩き、その書庫の奥底から隠れた名著を見つけ出し、写本を作るブックハンターが存在したらしい。本書の中心的な登場人物、ボッジョはその1人だ。
教皇庁で出世を目論み、出世をし、しかし出世に破れ追い出されたボッジョは、狡猾で、強欲で、それでも本を愛している(らしい)魅力的な人物だ。本書はボッジョが、分裂していた教皇庁の再編と、その中で彼がどう生き延びたかを縦軸に、エピクロス・ルクレティウスの思想を横軸に進む。進む、が、魅力的な事柄が雑多に放り込まれている感があり、少し読みにくい。しかし、中世の写本についての描写など読んだことはなかった。新鮮だった。著者にはシェイクスピアについての著作もあるらしい。読んでみたい。